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主人を喪ったのはつい先日のことでした。
その日は涙とリカーにまみれていたせいか、彼の死因が何だったかをまるで覚えておりません。
しかも、彼の死を目にしたのではなく、空虚な事実を電話で聞かされただけでした。
受話器を握る力がなくなり、ものが落ちる音と涙が伝う感覚が同時に響いたのが最後の記憶になります。
ちょうど今は横たわって死の余韻を味わっている最中なのですが、どうしてこうしているのかほんの少しも分かりません。
断片的に残っているのは、リカーの強い刺激のみで、それですら目の前に置いてあるビンから推測することで分かる程度です。
アルコールに強くない私がそんなものに手を出したのは、ひとえに彼がそれを好いていたからです。逆に言えば、このような苦味しか感じられない毒薬のようなものを口にするはずがありません。
彼に恋い焦がれ、彼の恋うものを好こうとした私はまるで受け付けなかった酒に多少の耐性は得ましたが、それでも微々たるものでしかなく、それ故に痛みを忘れさせることが出来たのやもしれませんが、二杯目にもなれば意識が朦朧とし始め、立ち上がることすらままならないのが現状です。
全てが総て、一事が万事、私は彼と等しくなりたかったのです。
彼の悦びを私の悦びとし、彼の憂き目を我がものとする、それが逢瀬の果てでの誓いでした。
彼が彼氏というものから主人となることが決まった日、あゝ、いよいよ一つになるのだという気がしたほどです。
それ以後、私は私でありながら、常に半身であるという意識の元に生きてきました。
ですから、片身を喪った瞬間、私もまた死に至ったのです。
ですが、観念上如何に死のうとも、肉体は霊魂と共に此の世に残っていますから、真の意味で主人の元へ行くために、彼が密かに手に入れた年季の入ったリカーを少し口に含み、今宵現世に別れを告げようと決めました。
死は実に静かにやって来ます。
あまりに静寂を漂わせるせいで、心臓の鼓動が聞こえ、むしろ生を感じさせるのが、大層皮肉なことだと感じられました。
もう一口だけ、唇を触れさせて。
最後に口にしたリカーは、やはり美味とは言える代物ではありませんでした。

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▼あとがき

こうも静かな夜の下で流れる音を聞いていると、嫌でも昔の思い出に浸ってしまう。
生まれた時にペンの先を紙の上に置いて、そこから一筆書きをし続けるような、それが人生だとするなら、私という絵はどんな風に出来て来ているんだろう。もう完成しかけなのか、それともまだ書き始めなのか。
どちらにせよ、その筆を止めることはもう出来ない。一度描いた線を変えようとすることはルール違反なのだ。
だから、悔いることは許されない。
いかに過去に間違いを犯してしまったのだとしても、誤った路線を進んでしまったのだとしても、今更それを無かったことには出来ないのだから。
これは決して悲観的な物の見方ではない。むしろ、明日への希望を抱くための、明るい生き方だろう。
私にもあった、他の誰の物とも比べられない悲しい出来事の数々。ここで言う比較出来ない、とは私の悲しみがいかに大きな物であったのかを指すのではなく、悲しみという物が比べられるべきではないということを示している。
その数々を、今でも時折思い返すことがある。
それはどこまでも忘れられない、私への戒めだった。

まだ訪れ始めた夜の下で、私を月を仰いだ。

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望んでいた物を手に入れた瞬間の感動が終わると、手放すことへの不安を強く感じる。
それは恋愛でも同じことで、会った時の幸せを噛み締めれば、また別れなければいけない時間のことを考えて、手紙のやりとりをしていても、返りを待っている時の寂しさを思ってしまうのは、仕方のないことなのだろう。
私と貴方は一心同体ではないのだから。
その距離がもどかしい。
けれど、この距離があるから、近づくことを喜び、離れることを寂しく思うことができるのかもしれない。
貴方のことを強く想って、幸せになりたいと願えるのかもしれない。

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その日、俺はいつもみたいに目を覚ましたんだ。
昼少し前の空には、もう太陽がずいぶん高く登っていて、今日もあんまり大したことは出来ないんだろうな、なんて考えてたんだ。
だから、カレンダーを見た時、びっくりせずにはいられなかった。
昨日まで八月だったはずなのに、三月になっている。しかも、去年の。
去年の三月。
俺が、あいつと別れた日。
あいつと喧嘩して、それっきりになった日。
その日かはまだ分からない。
けど、何も無かった三月にいるとしたら、どんな冗談って言うんだ。
この時の俺の心には、なぜ時間が巻戻ったかなんて考える余地は無くて、ただ目の前の事実を飲み込むしか出来なかった。
今なら、あの日の馬鹿な俺を止められるかもしれない。
あいつを傷つけることもなく、あいつといられなくなることも、なくなるかもしれない。
そう思った瞬間には、もう走り出していた。
目指す先は大樹の真下。自分が世界で一番幸せ者だと信じ切っていた俺たちが選んだ、ジンクスに飾られた場所。
いつも通りの、デートだったから。
いつも通りが、いつまでも、だと思っていたから。
振ったサイコロの目は、6までしか無いと思っていたから。
あれが、当たり前だと思ってたんだ。
俺が放り投げたサイコロは、正六面体では無かった。

『まだ桜は咲いてないな』
『私は梅の方が好きかな。香りがね』

向こうの方から聞こえて来た惚気声は、間違いなく俺とあいつの物で。
だけど、それ以上、俺は進めなかった。
どうやって、止めれば良い?
未来から来たんだ、お前たち、このままいったら、別れちまうんだ、って言うのか?
信じてもらえるわけがない。
俺たちは、一秒先の未来さえ、既知事項には出来ないんだから。
じゃあ、どうしたら良いんだよ。
俺は、どうやったら、あいつと、あいつと……。
目の前が、ボロボロになっていく。
声も遠くなり、視界も朧げになって、そこにいる感触までもが曖昧になっていく。
夢、なのか……?
目覚めれば、現実を受け入れられるのか?
いや、受け入れるも何も、過ぎ去った過去を描き直すなんて出来ないことは知っていた。
既定事項をやり直せないのは、十分すぎるほど理解していたんだ。だけど、チャンスがあるならーー
それでも、俺は、諦めきれて、なかった、んだよな。
未練が、あったんだよな。
誰しも、何かしら後悔とか、そういう感情を持ってるだろう。
けど、俺のは、まだ強い執念で、あの日の俺のことを憎んで、あの日のあいつを恨んで、あの日の全てを、忌み嫌っていたんじゃないだろうか。

「で、呼び出しておいて、何なのよ」

再び、声が聞こえてくる。
目を開けば、そこにはあいつがいて。

一種の、走馬灯みたいなものなのか?
また、同じことを繰り返さないように、誰かがしかけたのかもしれない。
変えるべきは、過去ではなく、未来なのだと。

「俺はーー」

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また一通、僕は手紙を書き終えた。
それをハシゴに登って一番上に置きに行く。
何十、何百、何千、何万、何億、何………………………………と。
ハシゴの段数は最早数えられない。
僕の脚が保っているのが不思議だ。
君は言ってくれた。
何千でも読んでくれると。
だから、書いていたのだけれど、渡す機会を失って、それがズルズルと引きずられて今に至った次第だ。

すぐ横をみると、東京タワーの天辺が見えた。
それでも、まだ手紙の塔は空高くへ昇っている。
続いて、建設途中の世界最高峰のタワーが目に入った。
何冊目のラブレターと同じ高さだろうか。
少し、見当が付かなかった。
また一心不乱に登っていると、富士山の頂上が下の方に見えた気がした。だけど、この歩みを止めるわけにはいかない。まだまだ先が見えないのだから。
僕の視力が良ければ、この後エベレストが目にはいるんだろうけれど、流石に僕は地球全体を見回す目は持ち合わせていなかった。
いつもみたいに白くてふわふわした天井を突き破って、一息ついた。
ここで疲れが出始めることを把握したので、つい先日休憩スペースを設けてみた。
もちろん、明日も普段と同じように学校に行って、一向に頭に入ってこない数式を覚えたり、真似をしても意思疎通には使えない旧世代の言語を読み解いたりしなくちゃならない。
そんなわけで、ここに長居は出来ないのだ。
ーー枚目。そういえば、この頃から文体がちょっと変わったんだっけ。
ちょっとばかり気取ってみたりしたんだったかな。
あ、体が熱い。
大気圏を抜けているのか。
手紙が焼けないようにしなきゃ。
僕は手紙をしっかりと握り締めなおすと、さらにペースを速めた。
辺りには各国の人工衛星がちらつき始め、いよいよ青い地球を背景に進む段階に入った。
確かに、地球は青かったようだ。
何度も確認しているせいで、今更すぎる懐古はもういらない気がした。

小さな星が一つ。
まだ見慣れない物だ。
手紙の山はそこで途切れており、ここに置けば良いと分かった。
僕は手紙にもう一度だけ愛の言葉をかけると、それを優しく、次の一冊が置きやすいように、そっと重ねた。

さて、これをいつ君に渡そうか。
読むのに時間がすごくかかる気がするけど。
そんなことを考えながら、僕は元来た段数分、下がって行くのだった。

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HN:
夕闇 舞
性別:
女性
職業:
学生(高校生)
趣味:
小説を書くこと・絵を描くこと
自己紹介:
創作が大好きなとある高校生です。
最近はあまりテレビやアニメを見ませんね。
しゃべり方は時折変化します。
ここでは丁寧語しか使いませんが、リアルでもさほど変わりませんね。
一日一杯のミルクティーが無ければ行動はもはや出来ませんね。
変な趣味はありませんので、気軽に関わり合って下さるととても嬉しいです。
ツイッターの方は、気に入ってくだされば、フォローしてほしいな、と言ったところですね。

プロフィール画像は紗々様に描いていただきました。有難う御座います♪

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